貴方は私を天使と呼んだ。 あの頃私は、天使なんかとは最も遠く離れた存在だったのに。 傷だらけで帰ってきた私を迎えたのは、やっぱりママの悲鳴(それは殆ど叫び声に近い)だった。 「まあっ、パティちゃん、貴女…!貴女、どうしたの、まあ!どうしたの、どうして髪の毛がそんなになってるの、ああ!」 ママは私をヒステリックに抱き締める。ママの長くて凄く綺麗な銀髪が私の顔をくすぐる。 ママ譲りの私の綺麗な髪の毛は、彼が切った――私が彼に切らせたのだ。あんな時でさえ、彼は私の髪を切ってしまう事を(私の為に)躊躇っていた。 ママの声でバタバタと集まってきた使用人達が私を見て、口々に「お帰りなさいお嬢様」とか「奥様、お嬢様がお怪我を…」とか大声で言っている。でも私は殆どそれらの声を聞いていなかった。 「お前達、早く、早くなさい!怪我の手当ての準備を!」 そう命じてからママは、私の方がママを痛々しいと思ってしまうぐらい震えながら、私をギュっと抱き締めた。 「おお…パティちゃん、可愛い貴女がこんなになって…だからママは嫌だったの、人間界で戦うだなんて!ああパティちゃん、そうよ人間ね、人間が貴女をきちんと守らなかったからこんなになってしまったのね、そうでしょう!」 「違うわ、ママ、全然違うわ!」 私はママの服を掴んで大きな声を出した。 「ウルルは私を守ってくれたの!自分が危ないのも構わずに守ってくれたわ!私が悪いの、私がいけない子だったの!」 泣き出した私を見てママは大いにうろたえた。今まで私がこんな事で泣いた事なんてなかったから。 「あなた、あなた、パティちゃんが――!」 泣きやまない私に困り果て、ママはパパを呼び続ける。使用人達もまた集まってきていた。 やっと帰って来た大好きなお家の大好きなママの大好きな膝の上で、私はもう2度と会えない大好きな彼の事を思って大声で泣き叫んだ。 ママに言うとママがまた何か言ってくると思い、私はお手伝いさんの1人に頼んで短くなった私の髪を整えて貰うことにする。私の部屋で少しずつ両サイドの髪を切り落としながら、お嬢様は奥様に似て、長くてとても綺麗な髪でしたのにと彼女は酷く悲しそうに言う。 うん、そうね、と私は短く答える。彼も私の髪を褒めてくれたなと考える。 お手伝いさんはとても上手に私の髪を整えてくれる。鏡を見て私は満足げに頷き、有難うと言う。このままだと寂しいので、前と同じ様に髪飾りをつけることにする。両サイドにつけたり片側だけにつけてみるが、どうにも気に入らない。頭の後ろにリボンをつけてみて、やっと落ち着く。 私は自分の部屋を見回してみる。きらきら光る沢山の綺麗な置物、オルゴール、宝石、お人形、お洋服、それらに囲まれたふかふかの大きなベッドで私はお人形を抱き締めて横になる。思い出すのは彼の事。 私は魔物だから、もう傷も殆ど治ってしまったけど、彼は弱い人間だ。傷ついた彼はどうしただろう? パパとママは私を何よりも大事にして、可愛がってくれる。叱られた事は一度もない。欲しい物はなんでも貰える。私の願いが叶えられない時はない。だけど彼は、彼の家はご飯を食べることさえ精一杯で、明日の事さえ保証はできない。彼は家族を守る為に、ボロボロになるまで頑張っていた。 なのに、ああ、それなのに、私はなんて彼に酷い事を言ってしまったのだろう?優しい彼を利用して、なんて悪い事をしてしまったのだろう?私はなんて、いけない子だったのだろう…―― 「ウルル、どういうつもり?」 雨をしのぐ為に入った廃ビルの中で、パティは冷ややかにウルルを見詰めた。ウルルは雨に濡れたパティの顔を黙って拭き続けている。 「どうして呪文を唱えなかったの?お金もないし、あのパン屋から頂くしかなかったのよ、なのに何故やらなかったの!?」 拭きおえた彼は静かに、見えませんでしたか、と言った。 「子どもがいた。家族連れだ」 「ああ、あの子?見えてたわよ、それがどうかして?」 ウルルは僅かに眉をひそめた。 「術を放てば怪我をさせてしまったかもしれません、知っていて、それでも貴女はやれと言ったんですか」 「だとしても大した傷じゃなかったわ」 パティは平然と言い放つ。 「ウルル、やるかやらないかを決めるのは貴方じゃなくってよ、この私!貴方は私の言うとおりにしてればいいの!」 「パティ――」 怒りを感じられる声であったが、それ以上何を言うでもなく、ウルルは黙って背を向けた。 パティも何も言わず、じっとその背中を見詰めていたが、「ウルル」 「――ッ!?」 ウルルが振り返った瞬間、素早く右手を彼の喉元に走らせ、背後の壁に叩きつけた。 鈍い音が響き、ウルルは地面に座り込んだ。その首に手を当てたまま、パティは言った。 「ホラ御覧なさい、貴方なんて所詮、こんな小さな女の子にも敵わない弱い人間なんだわ。口答えなんてせずに、大人しく私の言う事を聞いていればいいのよ」 ウルルは微かに目を細め、彼女を真正面から睨みつけた。それを見て、手の力を強くする。ウルルは息を詰まらせ、表情も更に険しくなったが、ふっと全身の力を抜いて酷く悲しそうな声を出した。 「あんたはなんにも解っちゃいない…」 「何ですって?」 パティは手を離した。ウルルが咳き込む。 「私が何を解っていないですって?」 「何を解っていないかさえ判らない今の貴女に…ッ、オレが言える事はない…。私は早く貴女が気付く事を願うだけだ、さあ、もういいでしょう、すいませんでした、食べ物は私が何とかしてきます。パティはここで待っていて下さい」 「ちょ…ウルル!」 パティをそっと脇へ押しやって、ウルルは雨の中へ出て行った。 「ウルルッ!」 出口に立って叫んだが、呼ばれた者が振り返る事はなかった。 パティは冷たい雨の音を聞きながら、ただそこに立っているだけだった。 辛い。私は力一杯お人形を抱き締める。彼は何度も何度も私に語りかけようとしてくれていたのに。私は彼の言う様に、本当に何も解っていなくて、彼を冷たく拒んでいた。 それでも彼は、こんな私を決して見放さず(そうしようと思えばいつだってできたのに)、最後の時までずっと一緒にいてくれた。とても痛かったに違いないのに、燃え続ける本から手を離さずに。 私はお人形に顔を押し付けて涙を零す。お人形は涙を全部吸い取ってくれる。私は声を殺して泣き続ける。 私は彼に随分酷いことを言ってきた。ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。全て記憶から消してしまいたい。特にあの時を。 お風呂上り、ウルルに髪の毛を梳いて貰っている時だ。パティは何気なく訊いてみた。 「ねえ、ウルルはずっとママや妹達の為に働いてたの?」 「ずっとというか…ええ、まあ」 手を休めずにウルルは答えた。 「少し前に父が亡くなって、それからはずっと私が、ですね。その前、私が子どもの時からも家の手伝いをしていましたが」 「へえ。それなのに、お金がないの?」 素直に不思議だった。私の家は、パパもママもそんなに大変そうには見えなくて、私も働いた事なんてないけどお金は沢山あるのに何故かしら? ウルルは悲しそうに答えた、「そういうものなんです。国によって街によって村によって、貧富の差がありすぎる…私の家は貧しい地域にありました」 「そんなに働いても全然楽にならないんじゃ、途中で嫌にならなかった?」 「なりました」 ウルルは言った。「でも、母達の為ですから。私が働かないと母や妹達を生活させられません。だからどんなに苦しくてもずっと仕事を探しましたね、母と妹達は、私の一番大切な…何よりも大切な人達ですから」 そのウルルのどことなく嬉しそうな穏やかな声を聞いて、パティは突然苛立った。幼いパティには判らなかったが、それは嫉妬に近い感情だったのかもしれない。母親も妹達も、ウルルにとったらかけがえのないたった一つの存在であるかもしれないが、自分だってウルルのたった一人のパートナーなのだ。お互い以外のパートナーは、絶対に存在しえない。 しかも――話を振ったのは自分なのだが――今は私の髪の毛をといてるのに何を他の人のこと考えてるのよ! 「ふぅん、ねえ、でも」 パティはわざと意地悪な口調で言ってみた。 「ママ達もそりゃあ苦労したのかもしれないわ、でもずっと頑張って辛い思いして働いてきたのはウルルなんでしょ?途中で嫌にならなかった?ママ達がいなければ、自分一人だけだったらもっと楽な生活ができたのにって、ご飯も食べられたのにって、ねえ、思わなかった?」 手が止まった。パティは楽しそうに両足をぱたぱたと動かした。 「ねえ、思った?」 酷い事を言ったとは少しも思わなかった。ウルルを困らせてやれたのが嬉しかっただけだ。 背後のウルルが俯くのが判った。口を開く音が聞こえ、ウルルはやっと苦しそうに声を絞り出した。 「…思った事も、………あります。だけど――」 それから後は毅然とした声だった。 「母と妹達という守るべき存在がなかったら、きっと私は今頃人の心なんて持っていないクソ野郎になっていたに違いないんです。だから私はいつも彼女達に感謝していて、何よりも大切にしたいと思っているんです」 今度はパティが黙った。どういう事だろう。理解できなかったが、再び腹立たしくなったのは確かだった。 「ウルル!向こうへ行って!」 「え?」 「向こうの部屋へ行きなさい!」 「でもまだ髪の毛が」 「いいから行きなさい!」 まだ渋っていたが、ウルルは腰を上げてやれやれと呟き、言われた通り隣の部屋へ消えた。パティは自分でもよく解らないままにぷりぷりと怒りながら、残りの髪の毛を自分でといていた。 「…どうして?」 ウルルは落ち着いて、穏やかに、ゆっくりとパティの両手を取った。 「貴女はこんなに良い子なのに」 パティがぴくりと肩を震わせた。真っ赤な頬が更に赤くなった。 「――良い子、って私…?」 「そうです」 力を込めて言った。「天使みたいに」 私はお庭でお花を摘み続ける。花束をいくつもいくつも作っていく。 どうして彼は私の事を天使なんて言ったのだろう?私はとても嫌な女の子だった。優しくしてくれたのは彼の方で、私は何一つ与えなかったのに。 確かに私の力で彼の家族は生活できるようになっていたけど、それは彼の最も好まない方法である事は私も充分理解していた。 彼は人間界の色んな事を教えてくれた。 ある時ウルルにこう言った、人間界の歌を何か教えて、と。 「歌、ですか…」 ウルルは頭をかいて考え込んだ。童謡の方が良いだろう。しかしプライドの高い彼女の事だから、子守唄などあんまり幼すぎるものは避けた方がいい。となると、ウルルもあまり知っている訳ではないので数がかなり限られる――マザー・グースは? そう考えて、知っている曲を片端から思い出してみた。ハンプティ・ダンプティは妹達もきゃっきゃと笑いながら聴いていたものだが少し短いし、マザー・グースのおっかさんは逆に長すぎる。誰もいなくなったあの歌は少々残酷だから避けるべきだ、盲目の鼠も、お母さんが私を殺した歌やリジー・ボーデンに至っては論外だ――自分はこういう残酷な歌を誰に聴かされたのだ?――とすると… 「パティ、なぞなぞです」 ウルルは人差し指をふって歌いだした、「男の子って何でできてる?男の子って何でできてる?」 「え?」 パティはきょとんとする。 「ヒント、三つあります。さあ、男の子って何でできてる?」 「え、え、えーと…骨と、血と、肉?」 「外れです」 ウルルは笑った、「蛙にカタツムリに子犬のしっぽ、そんなもんでできてるよ」 「えぇ?」 パティは盛んに瞬きする。 「何それっ?変なの!」 「変ですよね」 パティは今ウルルが歌ったメロディを繰り返した。 「蛙にカタツムリに子犬のしっぽ…変なの。変なの、フフフ!」 「さあ、では女の子。女の子って何でできてる?女の子って何でできてる?」 「んーと、んーと…判らないわ」 「お砂糖にスパイス、それから素敵な何もかも、そんなもんでできてるよ」 パティの頬がぽーっと上気し、瞳が輝きだした。 「素敵な何もかも…?女の子って、そうなの?つまり私って、この世界の全部の素敵なものでできてるの?」 「そうですよ。それにお砂糖にスパイス」 ウルルはパティの頭を撫でた。つい妹達にしていたのと同じ様にやってしまってよくパティに怒られるのだが、今の彼女はうっとりとしていて怒りだす気配などまるでない。 「パティにぴったりだと思いますよ」 「うん…うん、そうよ!そうだわ、素敵!いい歌ね、これ!他にはないの?」 「え?ええと…きらきら星?」 「きらきら星?」 「えー、きらきらひーかーる…お星様、何て不思議なお星様、世界の上の遥かな彼方、空に煌くダイヤのように、燃える太陽沈んだ後は、輝くものは何もなし、あなたの光がなかったら、きらきら星がなかったら…こういう歌です」 「いいわ、素敵だわそれ!それも教えて!」 「はい、続きは――…」 一番星にお願いをするとそれが叶う。そう教えてくれたのも彼だった。 「きらきら光るお星様…」 花束を作りながら私は歌う。夜になったら、お星様にお願いをしよう、今日も明日もその次も。彼が幸せになってますように、彼のママや妹達が幸せになってますように。私が犯してしまった全ての罪の償いも。 「…闇の中の旅人は、あなたの光に感謝します、あなたの光がなかったら、旅人は自分がどこへ行くべきか判りません」 花束を作り続ける。たくさんたくさん。今は魔界へ帰ってきている千年前の魔物達の為に。もう家族も友達もいない彼らの為に。 「蒼い空の彼方から、カーテン越しに私を見つめる、あなたが立ち去る事はない、太陽が再び空に昇るまで」 花束を持って謝りに行こう。どんなに時間がかかっても一人ひとり捜し出そう。許して貰えなくても許されるまでお花を持って謝りに行こう。 「あなたの光と煌きが、暗闇にいる旅人を救います…あなたは、何も、言わないけれどっ、…きらきら小さなお星様…ッ」 堪えきれなくなって私は膝に顔を埋めて涙を流す。大声で泣き叫ぶ。家からは離れているから、ママ達に聞こえる心配はないだろう。 貴方が私のきらきら星だった。 優しく私を見守り続け、真っ暗闇にいた私が道に迷わないように、ずっと輝き続けてくれていた。私はその輝きにも気付いていなかったのに。 私は必死に涙をこする。泣いてはいけない、いつまでも弱いままだといけないのだ。私も彼みたいになりたいから。 「パティちゃん」 驚いて振り返る。いつの間にか、ママが立っている。私の傍に来てしゃがみ込む。 「素敵な歌ね…パートナーの人間が教えてくれたの?」 さらさらの髪が顔に当たってくすぐったい。私は頷く。ママはそっと私の肩を抱き締めて、私の顔を覗き込む。透き通ったブルーの瞳。私の髪も瞳の色も、全部綺麗なママ譲り。きっと私は大きくなったらママみたいにとても美人になるのだ。 「パパも心配していたわ、最近のパティちゃん、一人でいる事が多くて、時々とっても寂しそうだから。だけどママは、びっくりもしているの」 「びっくり?」 「そう。帰って来たパティちゃんは、前とは凄く変わったわね、うまく言えないけど、…強い子になったわ」 私は驚く。帰ってきてからも相変わらずよく泣くし、今だって強くなりたいと思ったばかりなのに? 「ああ、成長したのね、パティちゃん…」 長い睫毛を伏せて、ママは自分の頬を私の頬にくっつける。いい匂い。大好きなママの匂い。 「貴女の髪の毛をこんなにした人間を、最初は随分憎んだわ、だけど、違うのね?貴女のパートナーは、貴女を愛してくれたのね?」 「うんっ」 私は力一杯頷く。 「ウルルは私をとても愛してくれたわ、ママやパパとおんなじくらい!私もウルルが大好きよ、ウルルはね、私に大切な、凄く大切な事を教えてくれたの、私は悪い子だったのに」 「貴女が悪い子だった事なんて、今まで一度だってなくてよ、パティちゃん」 ママが頭を撫でてくれる。 「いつだって大事な、わたくし達の可愛いパティちゃん」 だけど私は悪い子だった――私はママの胸で呟く。 「ママ、私これからもっともっと良い子になるから」 次に会った時、良い子だね、と彼にいっぱい抱き締めて貰えるぐらい。 「オレは今、料理人の見習いをやってるんだ。パティも褒めてくれただろう、オレの料理」 「うん、コックさんになれると良いわね、ウルルのご飯あったかくて凄くおいしいもの」 「オレはオレのやるべき事をやってる、お前は?パティもそうだろう?」 「私毎日ビョンコと一緒に千年前の魔物に謝りに行ってるの、お花を持って、ビョンコはクッキーよ!まだ全員じゃないけど、絶対全員に行くわ!」 「…偉いな。そうだ、偉いぞ、パティ」 「エヘヘヘ。…でも、当たり前の事よ。あのね、レイラにも会ったわ。レイラは私達を許してくれたの…酷い事したのに。最近はレイラとも遊んでるの、あの子の家はもうないから、私のお家によく来てるのよ、皆で私のプライベートビーチで泳いだり」 「それが一番いいんだ、皆で仲良く手を繋いで…楽しく遊ぶのが」 「アルヴィンは元気?ウルル知ってる?」 「ああ、時々手紙が来るぜ、畑にいる蛙を見たらクッキーを食べたくなるってさ」 「ビョンコも毎日3時にクッキー食べてるわ、フフフ!」 「妹にお前の事を話したんだ、友達と一緒に悪い怪獣と戦った女の子、って。その女の子はきっと天使だって、妹は言ったよ」 「…私、天使なんかじゃないわ。そりゃ天使やヴィーナスや女神や妖精みたいに可愛いけど、私は天使じゃ…」 「オレにとってお前はいつでも天使だったよ、勿論今も」 「……ッ――な、な、何よっ、蛙!カタツムリ!子犬のしっぽ!」 「は?」 「私は違うのよ、ウルルとは違うんですからね、お砂糖とスパイスと素敵な何もかもでできてるのっ。そう教えてくれたのはウルルでしょ?」 「ああ――はいはい、そうですよ」 「ちょっと!笑ってんじゃないわよ!私が大人になってセクシービューティーになっても、カタツムリなんかのウルルは相手にしてあげないわよ!」 「ハハ、まず大人になってからだな、楽しみに待ってるよ――じゃあ、パティ、そろそろ」 「うん、またね、ウルル」 「あァ、またな。――ああ、今日の空は綺麗だな、パティの瞳みたいな色だ――…」 私は空を改めて見上げてみる。彼の言った通り、空が本当に綺麗だった。私の瞳はこんなにも綺麗なのだろうか?以前は気にも留めていなかったが、彼はどんなに小さな事でも必ず見つけ出し、私の事を褒めてくれる。 私はこうやって彼との対話をし続ける。 全てが私の空想にすぎないのだとしても、この青空はきっと彼の世界と繋がっていると思うから。 風が優しく私の髪を揺らした時は、彼が私の頭を撫でてくれたのに違いないと思う。お花を摘んで、冠を作ろう。彼に被せてあげるのだ。彼は笑ってくれるでしょう。 「またね、ウルル」 もう一度その言葉を呟いて、お花畑から腰を上げる。そろそろママに呼ばれる頃だ。 お花と青空とお星様に囲まれながら、私は夢を見続ける。最後に彼が言ってくれたように、また彼と会える時が来ることを。 もう一度彼に、優しく抱き締めて貰えることを。 夢でも構わない、お花と青空と太陽とお星様とお月様が同時に存在する決してありえない世界を、私は必死に走り続けた。 ほら、やっぱり、彼は私がまだいくらも近付いていないのに、私に気がついて振り返ってくれた。 私は地面を蹴って懐かしい彼の胸に跳びこんだ。 「おかえり、パティ」 彼は涙が出てしまうほど、優しく優しく私を抱き締めてくれた。 「ただいま、ウルル!」 今まで私が書いた中で1番甘々なウルパティ。 魔界に帰った子ども達はどうしてるんですか、の質問の答えがナイショです!!なあたりフツーに家帰ってるって事はなさそうだと思うんですが、まあそのどうしても帰還後のパティちゃんが書きたかったので…。 ガッシュちゃんについてやビョンコ・レイラちゃんなんかも出そうと思ったんですが、ウルパティに集中したかったのでズッパリ削り〜。で、できたらまたの機会に…! あ、パティちゃんママはもう超過保護系でヒトツ! 04.12.30 |